ジェスモナイトFRPのコーギー犬の制作工程


石膏型を使ったジェスモナイトFRP

 

石膏型を使用したジェスモナイトFRP(ガラス繊維強化の貼り込み)の具体的な例として、造形作家 合田真弓(ごうだ まゆみ)さんの作品 愛犬コーギー「ランちゃん」の制作工程を詳しくご紹介します。合田真弓さんは造形業のお仕事で長くポリエステル樹脂のFRPを使用されていましたが、都合により制作を一時中断されていて、今回初めて水性樹脂のジェスモナイトを使用して本作の制作をされています。今回はその製作工程をジェスモナイトスタッフが取材して記録させていただきました。

石膏やポリ樹脂はこれまでに使ったことがあるけれど、ジェスモナイトは初めてという方々に大変参考になる内容になっています。(そして石膏もポリ樹脂も使ったことがないけれど、型取りや複製に非常に興味がある!という方にもきっと参考になると思います。)

使用したジェスモナイトの種類:「Jesmonite AC100

全体的な作業工程

  1. 粘土で原型を作成
  2. 石膏で型取り
  3. 石膏型に離型剤を塗布
  4. ジェスモナイトFRP貼り込み
  5. 石膏型の割り出し
  6. 塗装仕上げ

必要な材料

1.粘土原型の作成

木材で大まかな土台を作り、彫塑用の粘土で原型を作ります。

粘土原型から樹脂作業までの作業台として、パネコートというコンクリート型枠用の塗装合板を使用されています。ホームセンターで買えて離型性が良い板です。

今回石膏型を使用するため、あまり細く立った毛の表現はせずに造形されたとのことです。

2.石膏で型を作る

土粘土で制作した原型に石膏で型を作っていきます。

型外し作業をしやすくするためのパーティングラインを設定します。切金(金属の薄板)を使用し、凹凸に合わせて分割していきます。

1層目は石膏を刷毛等で塗布し、2層目からはヨーグルト状まで硬化した少し固めの石膏で盛っていきます。この際に、石膏を補強する為の天然繊維石膏補強材「スタッフ」を一緒に入れることで割れを防ぐ事ができます。

切金もしっかり埋めます。

今回は石膏厚は1cmほどです。石膏が薄ければ割り出しが容易になりますが、型がもろくなってしまうため見極めが重要です。

ポリ樹脂FRPとの比較ポイント
ポリエステル樹脂FRPと違い、ジェスモナイトは硬化時に全く収縮せず、完全に石膏型に密着した状態で硬化するため、あまり頑丈な石膏型を作成すると、割り出し時のパワーでジェスモナイトの破損を起こしやすくなるため注意。

石膏がしっかり硬化したら、石膏で埋めた切金の頭を削って出してから切金に沿って石膏型を開いていき、中の粘土を掻き出します。石膏型に着いた粘土はきれいに洗い落としておきます。

 

 

3.離型剤を塗布する

ジェスモナイトと石膏はそのままではくっついてしまうため、石膏型でジェスモナイトを使用する際は必ず事前に離型剤を塗布しておきます。今回は 液体離型剤DWC を使用しています。1度塗って乾燥させ、さらにもう一度塗るという工程を2~3回繰り返して離型剤を塗布します。

石膏型の乾燥状態ポイント
液体離型剤DWCを塗布する際、石膏型は多少湿っていても大丈夫です。あまりカラカラに乾燥していると離型剤が無駄に吸われ過ぎるため、わずかにしっとりしている程度がベストです。内部に水が溜まるようなベシャベシャでは離型剤がうまく定着しないため、水分をふき取ってから塗布してください。

 

離型剤乾燥のポイント
液体離型剤DWC塗布後はしっかり乾燥させることが大切です。気温にもよりますが、最低4時間程度置くことをお勧めします。(離形剤の塗布をしてから2週間や1か月など時間が空く分には問題ありません)

 

シリコン型なら
シリコン型の場合は離型剤は不要です。ジェスモナイトAC100はシリコンを劣化させる成分は含まないため、シリコン型も長持ちします。

 

その後クランプなどを使用して一度型を合わせ、面と面の間に隙間がある場合は油粘土で丁寧に隙間を埋めます。

▼完成した石膏型がこちら

 

4.ジェスモナイトAC100貼り込み

1層目のジェスモナイトは1~2mm厚になるように仕上げます。

この実物大コーギーちゃんの場合、1層目の塗りで使うジェスモナイトAC100の使用量は500~700g程度です。
使用量がわからなければ、とりあえず200~300g程度を一度作って塗ってみてもよいでしょう。

計算で求める場合は「体積(cm³)×1.85」です。(犬の体表面を四角く広げてみて、だいたい長さ60cm x 幅40cm x 厚み0.1cmという計算)
必要量の計算はこちらのジェスモナイト必要量計算ページ を使うとリキッドとベースの量まで分かるので便利です。

ジェスモナイトAC100のリキッドとベース(粉)を1:2.5の重量比になるように計量して、しっかり攪拌します。
おすすめは、電動ドリルに専用ブレードをつけて1分程度攪拌する方法です。

▼関連FAQ
専用のミキシングブレードは必要ですか?
攪拌用ミキシングブレードを取り付けられる電動ドリルはどの様なものですか?

手混ぜでもなんとかなりますが、その場合は3分程度しっかりと攪拌して完全にダマがなくなるようによく混ぜて下さい。


顔部分を塗布。
型の表面に気泡が残っていると、あとで穴が空いてしまうため、気泡が抜けるように刷毛を叩くように使ってジェスモナイトを塗布します。

(※今回の型は、犬の鼻先や耳先の奥まで手が入らないため、頭パーツと胴体パーツの型を別々に分けてジェスモナイト1層目の貼り込み作業しています。)

ボディ部分を塗布

角度がきつく、塗ったジェスモナイトAC100が垂れ落ちてしまう場合にはジェスモナイト増粘剤(タレ止め剤) を添加すると粘度が上がって垂れにくくなるので作業がやり易くなります。

刷毛の種類ポイント
型表面の気泡を追い出しやすいよう、腰の強い刷毛(豚毛・ナイロン刷毛)を使うのがおすすめです

 

離型剤と遅延剤の相性
「液体離型剤DWC」と「ジェスモナイト硬化遅延剤」は相性が良くなく離形性が悪くなるため、石膏型+液体離型剤DWCの場合は、1層目には遅延剤を使用しないでください。2層目からは硬化遅延剤OKです。
これは離型剤との相性の問題なので、シリコン型であれば一層目から遅延剤を使っても問題ありません。

 

1層目の塗布が終わったら、1層目が硬化するまで待ちます。ジェスモナイトAC100の硬化時間は20分前後です。

硬化を待っている間に 2層目バックアップに使うガラス繊維の裁断やジェスモナイトの計量を済ませておくと作業がスムーズになります。

ジェスモナイトが指で触って付かなくなったら2層目の貼り込みを開始します。
使用するジェスモナイトの量は、1層目の2~3倍量程度(3-4mm厚・ガラス繊維2プライの場合)が目安になります。
今回のコーギーちゃんだと、バックアップのジェスモナイトAC100使用量は1.5kg~2kg程度です。

1層目と2層目の間隔
1層目が完全に乾燥してしまうと、2層目との接着力が低下します。また1層目が乾きすぎていると、2層目の水分が1層目に吸われて表面に染みができることもあるため、できる限り1層目が固まったら時間を空けずに2層目を貼り込むのがおすすめです。

 

1層目の上にジェスモナイト液をやさしく塗り広げ、その上にガラス繊維を型に添わせるようにおいて、刷毛で使ってしっかりと型に馴染ませていきます。ガラス繊維がしっかりと型に密着し浮いてこないよう、ジェスモナイト液を上から追加しながらなじませていきます。

ジェスモナイトを大量に練りすぎると、作業の途中でジェスモナイトが固まってしまうことがあります。必要に応じて、ジェスモナイト硬化遅延剤を添加しておくと、作業時間を倍程度に引き延ばすことが可能です。ご自身の作業スピードや型の大きさ・複雑さに応じて、ジェスモナイトを少量づつ練って、部分的に順番に貼っていくのもよいでしょう。

ポリ樹脂FRPとの比較ポイント
ジェスモナイトAC100は一気に分厚く貼り込んでも過熱で変形したり割れることがないため、ガラス繊維とジェスモナイト液をサンドイッチしながら2プライ・3プライと一気に貼り込むことが可能です。

 

犬の鼻先のガラス繊維貼り込み。しっかりとガラス繊維とジェスモナイトをなじませます。

耳の部分はチョップドストランドという刻まれたガラス繊維を混ぜて使用しました。

▼チョップドストランドをジェスモナイトAC100に入れる(目安3%)

▼チョップ入りジェスモナイトを両方の型の境目に盛る。

▼ジェスモナイトが固まる前に型を合わせる

ガラス繊維が貼れないようなすき間や細い部分には、ガラスチョップを混ぜたジェスモナイトを使用して強化するのが有効です。今回作られている石膏型が、耳先に手が入らず、ガラス繊維を貼り込めない形状だったのでこのやり方をしています。
(今回は底面が空いているオープン型ですが、型同士を閉じるクローズ型や最後の石膏型の窓を閉じるタイミングは、この作業と同手順でできます。)

こちらは型の底側から型の内部を除いた様子です。ちょうど一番奥に見えている2つの穴が耳先です。ラインのように見えているのが、胴体と顔パーツの型同士の合わせた部分。まだジェスモナイトを塗れていないところが残っています。

この顔と胴体の繋ぎ目には、他の部分と同様にジェスモナイトとガラス繊維を貼っていきます。
顔の奥まで手を突っ込んで貼り込み。

このように顔と胴体のつなぎ目もきれいに貼れました。

貼り込みを続けます。

全体的に貼り込みがきれいにできました。

今回は底面が大きく開いているので、裏から作業ができて非常に貼り込みやすいタイプの型でしたが、最後に接地面がガタつかないようにひと工夫します。

接地面のキワに、ぼてっとしたジェスモナイトAC100(増粘剤を1%ほど入れてパテ状にしたもの)を置いていき、固まる前にひっくり返して、平らな板に押し付けます。

するとこのように接地面にジェスモナイトが平らに広がって固まります。
設置面積が増えて安定感が増し、またキワ部分のジェスモナイトが厚くなって強化されました。

 

5.脱型(石膏型からの割り出し)

ジェスモナイトが完全に硬化したら石膏型から割り出していきます。
石膏型の割り出しのジェスモナイト脱型時間は、最低半日です。あまりに早く割り出しをすると、充分に強度の上がっていないジェスモナイトが破損する危険性があります。逆に数週間放置後に割り出すことはそれほど問題はありません。

ノミや金槌を使って慎重に作業を進めていきます。

ポリ樹脂FRPとの比較ポイント
ジェスモナイトはポリ樹脂FRPと比べて弾力がなく、全く収縮しないので石膏型に密着しているため、FRPの感覚で勢いよく石膏を叩き壊すと内部のジェスモナイトまで破損してしまいます。力加減に注意しながら割り出しましょう。

 

壊さないタイプの石膏型は?
基本的に石膏型の場合は割り出しが必要です。ジェスモナイトは硬化・乾燥時に全く収縮せず石膏型に密着しています。このため十分な抜き勾配のある石膏型でも型を壊さずに外すのは困難なケースが多いです。

 

実は今回は割り出し時にトラブルが発生しました…!
顔パーツは離型剤がしっかりきいて問題なく剥離しましたが、胴体部分は1層目で硬化遅延材を使用してしまったため、DWC離型剤の離形力が落ちて、石膏がジェスモナイトに付着してしまいました。

▼無残にこびりつく石膏

(皆さまも石膏型・液体離型剤DWC・硬化遅延剤の組み合わせにはくれぐれもご注意ください!)

しかし、離形がうまくいかなくてもリカバリーが可能です。
石膏は水で簡単に崩れますが、AC100はそう簡単には水で崩れないため、水で濡らしてブラシ等で石膏を擦ることで、ジェスモナイト側に傷をつけずに石膏を取り除くことが出来ます。


6.仕上げ

バリを研磨します。気になる隙間や欠けがあればジェスモナイトで埋めて再び硬化させます。

アクリル絵の具で塗装されています。
塗装工程はあまり途中経過の写真がありません。(すみません!)
全体の流れとしては、最初にスプレーガンを使用して全体的な着色。使用された塗料はホームセンターなどで入手可能な水性のアクリルペンキを使用。
その後は画材のアクリルガッシュと面相筆を使用して細部の表現、毛の表現を細やかに描かれています。

塗装することで今までとはがらりと印象が変わり、とても暖かくもふもふした雰囲気になってきました。

作品完成!
完成後の作品重量は3.8kgでした。
(底面安定のためにAC100を付け足したりしたので少し重くなりました)

実物のランちゃんと並んで。かわいい…かわいい…

背中から見てもかわいいですね。

愛犬のランちゃんが元気なうちに形に残したいと、合田さんがご自身のために制作された作品とのこと、しっかり愛情のこもった素敵な作品に仕上がっています。合田さん、製作本当にお疲れさまでした。
合田さんに制作後のインタビューをさせていただきました。

本作についての想いを聞かせてください。

合田真弓さん「過去にもFRP樹脂で飼い犬の等身大を制作したことがありました。飼い犬が亡くなった後も等身大ならではの存在感があったので、今の子が生きているうちにまた作りたくなりました。久々に作るにあたって制作環境も変わり、よりクリーンな素材を模索しておりましたら、ジェスモナイトを紹介して頂き制作に踏み切ることが出来ました。」

苦労したところと、うまくいったところがあれば教えてください。

合田真弓さん「コーギーは薄い立ち耳なので、切金を耳に沿って入れるところは気を使いました。石膏型にする予定だったので、深く作り込みすぎないように、脱型しやすいようにイメージしながら作りました。」

初めてジェスモナイトを使われてみて、ポリエステルFRPと比べ「やりやすかった・良かった点」と、逆に「苦労した・悪かった点」について感想があればお願いします。

「良かったのは水性なので臭いがないところです。ハケ類も水洗いが出来て、使って安心感がありました。仕上がった塗装前の質感も高級感があり、素材そのものが綺麗だと思いました。
やりにくかった点は、FRPの貼り込みでは割とサラサラした液体でガラスマットやチョップに浸透させる事が出来ますが、ジェスモナイトは少し粘度があるので、ガラス繊維に染み込みにくく、塗りハケがガラス繊維を持ち上げてしまいそうになる場合もありました。」

今回作業記録に多大なるご協力頂きました合田真弓さま、そしてモデル犬のランちゃん、本当にありがとうございました!

合田さんアトリエでの素敵な一コマ